コラム

魚を陸で育てる時代、その電気はどこから来るのか

― 陸上養殖は、食料危機対策であると同時に「電力集約型の食料生産」でもある ―

陸上養殖は有力な選択肢ですが、その安定性は自然ではなく人工管理に支えられています。だからこそ、食料問題としてだけでなく、電力問題としても見なければなりません。

もどる

陸上養殖は、気候変動や海洋環境の悪化が進む時代に、安定供給の手段として期待されています。海の状態に左右されにくく、品質も揃えやすい。食料を守るうえで有力な選択肢であることは間違いありません。ですが、その強みを「漁業の代替」という一言で片づけてしまうと、本質を見落とします。

陸上養殖は、自然の変動を人工管理に置き換える仕組みです。水を循環させる。酸素を管理する。温度を保つ。排水を処理する。監視や制御を続ける。海の中で自然が担っていた条件を、人間側が機械と電気で安定化させる。それが陸上養殖の実態です。

魚を陸で育てるということは、海から陸へ場所を移すだけではなく、自然の力を電力で買い直すことでもあります。

ここで重要なのは、陸上養殖を否定することではありません。むしろ異常気象時代には必要な手段です。問題は、それを「よい技術」と評価するだけで終わらせてしまうことです。設備が高度になるほど、循環ポンプ、濾過、温度維持、給餌管理などの電力負荷は増えます。つまり陸上養殖を広げるほど、食料政策はそのままエネルギー政策にもなっていきます。

しかも陸上養殖は、ただ電気を使うだけではありません。停電や電力価格の変動に対して脆い側面も持ちます。自然の漁業なら海そのものが生産の場ですが、陸上養殖は設備が止まれば、生育環境そのものが崩れやすい。安定供給を目指して作った仕組みが、電力不安で逆に不安定になる可能性もあります。

だから陸上養殖を本気で社会基盤にするなら、水産政策だけで語っては足りません。どの程度の電力が必要なのか。その電力をどこから持ってくるのか。コスト上昇や供給不安にどう耐えるのか。そこまで含めて初めて、陸上養殖は現実的な未来戦略になります。

食料問題とエネルギー問題は、別々に存在しているのではありません。異常気象の時代に食料供給を守ろうとするほど、その裏では電力需要が増えていく。この構造を正面から見ることが、これからの社会設計の出発点になります。