テーマ3-2

国立大学から地域を興す

若い人が地元で学び、働き、挑戦できる流れをつくる

若い人が進学や就職をきっかけに都市部へ移り、そのまま戻らない地域が増えています。 理由は単なる都会志向ではなく、地元で学び、働き、挑戦する道が見えにくいことにもあります。 本テーマでは、各地の国立大学を、地域の仕事・産業・人材が集まる中心として考え直します。

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若い人が生まれ育った地域を離れる理由は、単純な「都会志向」だけではありません。 「面白い仕事が少ない」「挑戦できる場が見えにくい」「学んだことを生かせる将来像が描きにくい」。 こうした感覚が積み重なった結果として、進学や就職の選択肢が大都市圏へ集中していきます。

だからこそ、各地域の将来を考えるときに必要なのは、 ただ「戻ってきてほしい」と願うことではなく、 「ここにいた方が学びも仕事も面白い」と感じられる土台を整えることです。

各地域に必要なのは、残ることを求める空気ではなく、自然に残りたくなる環境です。

その土台をつくる中心として、私たちは国立大学に注目します。 各地に配置された大学を、単なる教育機関としてではなく、 その地域の知恵、人材、技術、産業が交わる「知のエンジン」として位置づけ直すことが必要です。

ここで重要なのが、大学の役割を三本の柱で捉え直すことです。 第一の柱は、入りやすさです。地元進学を現実的な選択肢にするため、 受験制度の柔軟化や学部構成の見直しを進め、地域の高校生が無理なく挑戦できる環境を整える必要があります。

第二の柱は、学びの魅力です。地域課題と結びついた研究や、企業・自治体との共同プロジェクト、 文化や自然資源を生かした実践型カリキュラムが充実すれば、 「この大学だから学びたい」という理由が生まれます。

第三の柱は、卒業後の展望です。学んだことがそのまま地域の仕事や起業につながり、 地元企業との共同研究や実証事業へ自然に接続していく仕組みがあれば、 若い人にとって地元は「出ていく場所」ではなく、「未来を試せる場所」に変わります。

入りやすさ、学びの魅力、卒業後の展望。この三つがそろって初めて、大学は地域の心臓になります。

大学の中に地元企業との共同研究拠点を置き、学生が在学中から実践的なプロジェクトに関われるようにする。 そうした環境が整えば、「卒業したら大都市圏へ」ではなく、 「この大学にいた方が、面白い研究や仕事に出会える」という流れが生まれます。

さらに、各地域の大学は、その土地に根ざした産業や技術、文化を見直すためのシンクタンクにもなれます。 農業、海洋、観光、医療、伝統工芸、エネルギー、防災など、 地域ごとに異なる強みを大学が整理し、研究と事業へつなげていけば、 47都道府県がそれぞれ異なる個性を持ちながら発展していく姿が見えてきます。

その副次的な効果は、教育や研究にとどまりません。 地元企業との連携が強まれば、外部企業の進出や研究拠点の設置も進みやすくなります。 大学発ベンチャーが生まれれば、投資、人材、サービス業が集まり、 新しい雇用と事業の流れが生まれます。

住む場所としての魅力も高まります。学ぶ人、働く人、支える人が増えれば、 居住人口の増加やまちづくりの発展につながります。 住宅、交通、商業、子育て環境など、生活基盤全体が少しずつ整い、 地域の中に持続的な厚みが生まれていきます。

大学の存在感が高まることは、交流人口を広げることにもつながります。 研究施設、公開講座、産学連携イベント、実証フィールド、学会、展示、地域資源と結びついた新技術。 こうした積み重ねは、その地域ならではの魅力となり、 観光資源の磨き上げや新たな創出のきっかけにもなります。 「知の面白さ」そのものが、その地域を訪れる理由になるのです。

そして、人の流れができれば消費も増えます。 学生や研究者、企業関係者、来訪者が増えることで、 飲食、宿泊、交通、小売、文化サービスなど、地域の日常経済にも広く波及していきます。

地域の大学が強くなることは、教育の充実だけでなく、企業誘致、起業、居住、観光、消費の広がりにもつながります。

こうした流れが形になっていけば、大学発のベンチャーや新しい事業も生まれやすくなります。 一つの成功例ができれば、その周囲に人材、投資、サービスが集まり、 各地域の中に小さな循環が生まれます。 それがやがて、雇用の厚みとなり、その地域の自信にもなっていきます。

その意味で、国立大学への投資は、教育費ではなく各地域の将来への投資です。 研究設備の更新、優れた教員や研究者の招聘、大学発ベンチャーを支える基金の整備。 こうした取り組みは、目立ちにくくても、長い目で見れば日本全体の持続可能性を支える土台になります。

中央と地方という対立ではなく、それぞれの地域が役割を持ってつながる形を目指します。 各地域が自分たちの知性を育て、自分たちの強みを形にし、全国の中で役割を持ってつながり合う姿です。

そうした視点から見れば、連動コラムで扱っている「海中電力ファーム」のような構想も、 単なるエネルギー論ではなく、大学、産業、地域資源をつなぎ直す具体例の一つとして位置づけられます。 技術開発と地域経済を切り離さずに考えることが、 これからの日本にはますます重要になるでしょう。

各地の大学が、それぞれの地域に根を張りながら全国とつながる。そんな多極的な国のかたちこそ、日本の次の強みになり得ます。